先日SNSのYahoo! Days がサービスを終了すると発表がありました。またGoogleのCEOがSNSでの失敗を公言しました。なぜ圧倒的利用者数を誇るポータルサイトが軒並みSNSで失敗しているのか、その理由を考えてみました。
結論から言うと、ポータル系サイトが提供するSNSがうまくいかない理由はそれぞれが提供するユーザーアカウントの性格の違いを読み取れなかったことにあると見ています。
現在の状況
Google やYahoo!が提供しているSNS系のサービスの内容やFacebookとTwitterとの比較は論じられていますが、日本においても各ポータルサイトのSNSが流行っているとは認識されていません。
日本ではmixi、GREE、mobage、Ameba Pigg、世界ではFacebookとTwitterにユーザーが集まっています。厳密に区別すると、GREE,mobageはゲームプレイヤーズネットワークというジャンルになってきている感じです。本当の意味でのソーシャルネットワークはFacebookとmixiではないでしょうか。
ポータル系サイトのアカウントは「個人的(パーソナル)」なもの
ポータル系サイトは10年の歴史があり、多くのサービスを展開してきました。
フリーメールやMy○○などのアカウントは情報の「パーソナライズ」やツールの「プライベート利用」が目的でした。
掲示板やチャットなどユーザー同士のコミュニケーションのアカウントは「匿名」が前提でした。
ECやオークションなどサービスを深く利用するためにクレジットカードや住所など必要だが「非公開の個人情報」をアカウントに設定していました。
ISP系のポータルサイトはアカウントに接続会員としての要素もひもづいています。
長い歴史の中でポータルのユーザーアカウントは「パーソナル」「プライベート」「匿名コミュニケーション」「非公開の個人情報」と密接につながっており、ユーザーにとってはきわめて個人的なアカウントとしての印象が刻み込まれているはずです。
よってポータル系のアカウントは個人利用の「パーソナルなアカウント」であると考えます。
ソーシャルネットワークのアカウントは「社会的(ソーシャル)」なもの
アカウントの性格として、自分が何者であるかを相手に知らせ、かかわりのある人とコミュニケーションをとり、アイデンティティを確立しながら情報活動やリアルの活動をシェアする用途として利用されます。今ではリアルにどこにいるかやどこに行くつもりかをネットで報告しあう状況です。
これはアカウントの行動内容を積極的に他者に共有し共感を得るために利用する「ソーシャルなアカウント」といえます。
パーソナルな登録情報とソーシャルな登録情報の違い
・ポータル系アカウントで自分の住所を設定する目的は、天気や地域の情報を「個人的に」参照するため
・ソーシャル系アカウントで自分の住所を設定する目的は、友人に公開するため、もしくは見つけてもらうため
というように、同じデータを設定することに対してもユーザーの意図が異なります。実名に関しても、「買ったものを届けてもらうため」なのか「自分の本名を友人に知らせたり、検索してもらうため」なのかで登録意図がまったく違います。
パーソナルなアカウント(情報)をソーシャル化(シェア)してクレームの出た事例
・ Amazonは個人的利用として提供していたウィッシュリストをネット上の誰からでも参照できるように仕様変更したことがありました。これはほしい物を他者に公開、共感を共有するためにソーシャル化したといえます。Amazonのアカウントは物を購入するだけのきわめて個人的利用目的が強いアカウントです。実名が入っているウィッシュリストを公開してしまったため、大騒ぎになりサービスの仕様が変更されました。
・ mixiは友達を新たに探すために、本人しか知りえないログインIDであるパーソナルなアカウントであるメールアドレスをキーにmixiアカウントを検索できる機能を提供して、クレームになり、機能を停止しています。
・ Google BuzzはGmailとがっちり連動させてしまい、コンタクトリストを友人に自動登録したり、アカウントに設定されている他のサービス利用目的の個人情報をシェアしてしまい、プライバシー問題に発展して機能改善を余儀なくされました。とくにGmailにくっつけること自体が上記のアカウントの性格の違いを考えるとユーザーにとっては非常に扱いづらいものになったと思います。
Yahoo!やGoogleなどでSNSを利用するユーザーの深層心理
フリーメール、オークション、ショッピング、株価ポートフォリオ、パーソナライズなどシングルサインオンで利用できる。それぞれのサービスで個人的な情報をやり取りしたり、保存されている、クレジットカード登録もしている。掲示板にいろいろ書き込んだ。オークションでいろんなものを購入した履歴も残ってる。同じサイトのSNSサービスで自分のアカウントで活動すると、過去の利用データや他サービスの行動も友達に見られるのではないか?だったらmixiやFacebook,twitterなど別のアカウントで活動したほうがいい。
シングルサインオンとID連携がソーシャルに向いていない
ポータルの複合サービスのシングルサインオンや各サービスのアカウント連携はシステムとしてユーザーの利便性を高めてきました。しかしSNSでは予期せぬアクティビティがシェアされるのは避けたいです。あくまでもユーザー自らが許容した範囲でシェアされることが望ましいです。ポータル系が目指してきた自動的な連携がSNSでの他者への見え方がわからず不安を与えます。たとえばいままでどおりヤフオクを利用していてSNSに恥ずかしいものを落札したとシェアされるのは避けたいです。
過去の機能や蓄積した情報と行動履歴が新たなシェアを生むSNSと同じアカウントでは使いづらいと思います。
ポータル系がSNS競争で勝負するには独立ブランド化と大規模投資が必要
ポータル系は従来のマルチサービスの提供をシングルサインオンで囲い込みする考えをSNSに関しては変えなければならないと思います。要するに既存アカウントとは切り出したところにサービスをおかなければならないと考えます。
大手ポータル系がFacebookやTwitter,その他Linked.inなどともう一度対等に勝負するならば、ブランドを新たに作り、既存ブランドとは切り離した形で独自性を持ったSNSを作る必要があります。ユーザーにはポータルアカウントとは別にアカウントを取得させるしかありません。そのSNSのユーザー獲得手段はポータルサイトのトラフィックを利用して新たなユーザーを誘導する。また巨大な利益の優位性を利用して新SNSブランドを立ち上げて大掛かりにマーケティングするしかありません。それとは逆に既存のアカウントを実名ベースのリアル連動のアカウントに用途を変えることですが、既存のビジネスをぶっ壊しかねないので難しいでしょう。
リアルな人間関係を構築しようとするソーシャルグラフをめざすSNSはその登録数とトラフィックに対して収益性が低く、チャレンジしてブレークイーブンに持っていくためには相当の投資と時間が忍耐とともに必要になります。他の可能性のあるサービスと比べるとビジネス的には割に合わないといわざるを得ません。
時代はインターネットを匿名や個人的趣味のために使う時代が過去のものとなり、個々のアイデンティティを確立し、リアルな付加価値を創造してそれをシェアする道具や場所としての役割を果たすことができると思います。これから立ち上げるサービスやビジネスはそういう目的をもって立ち上げることが大切だと考えます。